ヨーグルトを無限にしたい

ヨーグルトを無限にしたい。

 

ここでいう「無限」とは、最小限の原材料から好きなだけ自家製造できることを指す。

スーパーで買える材料から、極力手軽&安価にヨーグルトを作れる環境づくりを目標としよう。

 

まずヨーグルト作りの手順を確認しておく。

①清潔な容器を用意する

②牛乳を86℃まで温め、42℃まで冷却する

③牛乳に対し質量比で2~5%のヨーグルト(スターター)を加える

③保温する。

④できた!

 

以上。簡単。

 

補足をするなら②だろうか。

この操作の目的は2つあって、まず意図せぬ雑菌類の殺菌だ。ヨーグルト作りのためには乳酸菌以外の菌が死んでいてくれた方が都合がよくて、①でわざわざ清潔な、と書いたのにもそういう理由がある。ドラッグストアに行けば除菌用のアルコールが売ってるので、保存食を作る人は買っておくと便利だろう。

 

もう一つに、カゼインというタンパク質を熱変性させることがある。乳酸菌という名前の通り、やつらは乳糖(ガラクトース)からいろいろなステップを経て乳酸を作るのだが、これによって牛乳は酸性に傾く。そのせいでタンパク質が凝固するから、ヨーグルトはあのような半固体(ゾル)状をしている。牛乳を事前に加熱してカゼインを変性させておくと、このとき硬めの(つまり、見栄えのいい)ヨーグルトができる。

 

あと③で加えるヨーグルトの量。

「少ないほうが案外うまくいく」と複数の媒体に書いてあったのだが、どういう理屈なのかわかっていない。誰か実験とかしたら教えてほしい。

 

最後に保温する時間について。

我が家では43度・8時間を目安としている。

長すぎると乳酸が増えすぎて過剰にすっぱくなる。ヨーグルトメーカーanovaを使うと便利です。なければ電気毛布+発泡スチロールとかでもなんとかなるでしょう。

 

最終目標がヨーグルトの無限化だったことを思い出そう。

上の工程リストを見ると、案外簡単そうに見える。人間の仕事は環境を整えてやるだけで、あとは乳酸菌に任せればよいのだ。

じゃあ今から早速……と行きたいところだが、実は1つ致命的な問題がある。

一般的なヨーグルトをスターターに使うと、乳酸菌の再繁殖に限界があるのだ。

具体的には2~3回。市販のヨーグルトからヨーグルトを自作し、そのヨーグルトを種にさらにヨーグルトを……と続けていこうにも、3代目くらいで乳酸菌の繁殖が止まってしまう。今回の目標は半永久的にすることだ。3世代ごとにヨーグルトを買いなおしてるようでは、とても無限とは言えない。

 

原因はだいたい分かっている。市販のヨーグルトに含まれる菌は純粋すぎるのだ。

人間が風邪を引くように、乳酸菌もファージと呼ばれるウィルスに感染し、健康時の能力を失ってしまうことがある。市販のヨーグルトに含まれている菌は、いわばエリートの中のエリート。効率よく発酵させられる菌を掛け合わせて得たサラブレッドを、さらに純粋培養したものである。

みんな等しく優れている一方で、みんな等しい弱点を持つ。エリート乳酸菌を殺せるファージがたまたま混入すると、そのまま一網打尽にされてしまうのだ。

 

同様の問題にぶち当たった先人がどうやら居るようで、ヨーグルトの種菌には「再培養可能(re-culturable)」という概念がある。エリート菌以外にもいろいろな乳酸菌を混ぜておくことで、より複雑な生態系を構築させ、偶発的なファージ程度なら対応できるようにしてあるらしい。

 

今回参考にした本の中のひとつには、ご丁寧にも再培養可能な種菌を売ってる通販サイトまで書いてあったのだが、元々が欧米の本なせいで日本の業者までは乗ってなかった。国外からでも買えはするが、送料がとんでもないことになる上に、再度購入するときにも面倒臭さがつきまとう。(無限にすると息巻いてはいるが、なんだかんだ言って雑菌の混入や温度管理の失敗で台無しになる可能性は十分あるので、種菌は安価であってほしい)

 

じゃあどうするか?現状、ここで手詰まりになっている。この記事を書いたのも誰かがヒョッコリ解決策を提案してくれないかと期待してのことだ。

 

ひとつのアイデアとしては、乳酸菌の自家培養がある。

なにも乳酸菌はヨーグルトの中にしか存在しないわけではなくて、植物の表面なんかにも生息する。玄米の表面に棲む乳酸菌を培養するテクニック自体は一応存在するらしいが、情報ソースが信用できない個人ブログ(ハンドルネームが〇〇ママで怪しげな健康法を信じてるようなやつ)しか無いので若干の不安が残る。できれば学術的な裏付けが欲しい。

 

ともかく何か案があったらコメントとかしてください。

 

以下、9/10追記

さいきんanovaを(とうとう)買ったので気軽にヨーグルトを作れるようになりました。やったね。

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▲やったね!

 

種菌どうすんの問題について、ありがたいことにいくつかアイデアをもらったので紹介する。

 

①複数の市販品を混ぜる

3周目で限界が来ました。ざんねん。

 

カスピ海ヨーグルトを培養する

多分かなり正解に近い。

カスピ海ヨーグルトはもともと、東欧のある集落で代々衰えずにヨーグルトを作り続けていた菌を殖やしたのがルーツである。今回の目的である半永久的なヨーグルト作りを、実現していた集落があったということだ。

 

そんな訳で種を買い、培養してみたのだが、これにもやはり限界が来てしまった。とはいえ何周再培養できたか忘れるくらいには成功したので、その点では大進歩だ。

 

さっき「実現していた集落があった」と書いたがここがミソで、身の回りにヨーグルト培養者が何人もいるなら、その内1人でも無事なら種菌が確保できるのだ。

 

ちょっとこの解決法は難しいので、結局カスピ海ヨーグルト案も保留になってしまった。

 

今のところ、買ってきたヨーグルトを種菌として、余ったぶんは冷凍保存することで当座の解決としている。

 

乳酸菌が思ったよりも凍結に強く、何度か再冷凍した後でも問題なくヨーグルトを作れたのだ。

 

種を買う必要がある点で妥協はしているが、ともあれヨーグルトを以前よりずっと気軽に消費できるようにはなったので一旦良しとしている。

 

いじょうです。

 

★参考文献

『発酵の技法』サンダー・エリックス・キャッツ(オライリー・ジャパン/2016)

『ヨーグルトの辞典』齋藤忠夫 [ほか](朝倉書店/2016)